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★☆自分の木の下☆★

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18.夜中の公園

                                                                     ≪千鶴≫↓

「おもっ………」
 ガシャッと袋の中の缶があたる。両手に下げたコンビニ袋。両方に入っているのは無数の缶とおつまみ。重い、非常に重たい。
「っだぁぁぁぁっ! ぬぁんで、あたしがこんなに買わなくちゃいけないのよーっ!」
 誰もいない道端で茜は叫んだ。人っ子一人いない。だから今、茜は自分の中にある不満を一気に出していた。
「だいたい、急すぎんのよっ! ジャンケン? はっ? いきなりふられたら勝てるジャンケンも勝てないわよっ! っていうか、何であたしなのよっ!」
 ムカムカと腹が煮えくり返る。一人で、しかも7人分のお酒とおつまみ。何のバツゲームだ。
「信っじらんない、か弱い女の子をこんな夜に買い物に行かして」
 今なら誰も突っ込まない。か弱いか弱い、と何度も呟く茜。そして、ふと思った。
 お酒が重い。なら減らせばいい。どうせ総司たちは自分が帰ってくるまでトランプとかで遊んでいるに違いない。何本買ってこい、とも言われてないのだから少し減ったって気付かないだろう。「………近くに公園もあることだしぃ~」
 ニマニマと茜は笑い、そそくさと公園の中へと入って行った。
 丁度そのとき、総司が公園を通り過ぎた。だが、二人とも、それには気付かなかった。



「いねぇ………」
 いらっしゃいませー、こんばんわー。と店員の明るい声が聞こえる。だが総司はそれを無視し、店内を回った。そう大きくないコンビニ。なのに茜の姿はなかった。
「アイツ、どこ行きやがった?」
 入れ違いか? だが、総司は茜と擦れ違うどころか姿も見ていない。複雑な道のりではないのだからバッタリ合ってもおかしくないはずだ。
 キョロキョロと店内を見回すが、やはりいなかった。
「あの、お客様……何かお探しですか?」
 と、そこへ声をかけたのは店員だった。総司の行動が商品を探しているように見えたらしい。総司は、あーとか、うーとか言った。もしかしたら茜を見たかもしれない。「さっきこの店に女が来なかったか? 茶色い髪で顔は……まぁ美人で………酒とつまみを大量に買っていると思うんだが………」
 すると店員は、あぁ、と小さく言った。
「はい、いらっしゃいましたよ。かごいっぱいにお酒とおつまみを買っていかれました。普段ならあまりお客様を覚えたりしないんですが、あまりにも強烈すぎ………あ、いえ印章深くって…………そのお客様ったら、つまみはあるもの全部かごに入れてしまうし、お酒もほら…………」
 そう言って店員はお酒の入っている場所を指差した。
「………………」
「お酒もほとんど買われていかれて………まぁ店としては売り上げ的に助かりますけど………」
 茜、お前は限度っていうものを知らんのか………と総司は頭を抱えた。 おつまみは全て買い、お酒もほとんど買っている。おかげでこのコンビニはそこのコーナーだけ空っぽだ。いくら姫にカードを渡されたからってこれは…………。
「やり過ぎだ………」
「はい?」
「あ、いや………。そいつはいつ店を出た?」
「はぁ………そうですねぇ~…………かれこれ十分前くらいでしょうか?」
 十分、それならもう戻ってるか? そう考えた総司は軽く店員に礼を言うと店を出た。ありがとうございましたー、またお越しくださいませー。という店員の声が微かに聞こえていた。





 誰もいない公園。なんの音もしないその場所で茜はケラケラ笑っていた。
「ふっざけんじゃないわよー、なーんであたしがぁぁぁー」
プシューッと缶をあけ、一気に飲み干す。
「だいたい総司はさぁ、あたしにキツいのよーっ、もっと優しくしろー!」
 既に何本もの缶が辺りに散らばっている。完璧に茜は酔っていた。赤い顔でブツブツと文句を言っている。
「かーのじょ、一人?」
「んぁ?」
 不意にかけられた声に顔を向けると、大学生くらいの男が四人そこにいた。
「けっこう飲んでるねー。何、何? なんかあったの?」
 男はやけになれなれしいが茜は酔っているのでさほど気にならなかった。それどころか愚痴相手ができたとばかりに顔が綻ぶ。
「聞いてくれるー?」
「あぁ、聞く聞く♪」
 男たちがにやけた顔付きになったのに茜は気付かない。
「なんかさぁー、なんでアイツあたしに優しくないのかなぁってさぁー。他の女の子には優しくしてんのよー? とくに椿とかさぁ。なのに、アイツときたら………あたしには殴る、蹴る、罵る! ほんっと信じらんないのよっ!」
 だんっ! と足踏みをする。と、男の一人が茜の隣に座った。
「そいつは酷い彼氏だなぁー」
「彼…………氏?」
「そう、彼氏」
 そう言われて茜は固まった。彼氏? 総司が? カレシ? カラシじゃなくて?
「それで君怒ってたんだぁー。ほら、そんな彼氏別れちゃいなよー」
「そうそう、俺たちならそんなことしないぜ?」
「あぁ、優しくするよな」
「な、俺たちと遊ばない?」
 次々と言われる言葉だが茜の耳には入らなかった。彼氏とは………異性同士、互いに好きな人。愛し合っている人。手を繋いだり、抱き合ったり 、キスしたり、子作りをしたりする中の人。
総司が………彼氏!?
「ち、違っ! 総司は彼氏なんかじゃないっ!」
 ハッとしたように茜は言った。そうだ。総司が彼氏なんかありえない。
「あ、違うんだぁー。じゃぁ尚更俺たちが遊んでも問題ないね?」
「はっ?」
「フリーっしょ? どこ行く? カラオケ? それともホテル?」
「あんたたち何言って!?」
 男たちはケラケラと笑う。それを聞き茜はようやくこの状況が分かった。危険だ。
 冷汗を書き、茜は立ち上がった。すぐに買物袋をとると走りだす。
「どっこ行くの~?」
 が、男たちは分かっていたのかすぐに茜の腕を掴んだ。掴まれた拍子に袋が下に落ち、中身がでる。だが、それを拾っている場合ではなかった。
「っ、放してよっ!」
 掴まれた手を振りほどこうとするが、やはり男と女。力の差は歴然だった。
「逃げんなよー。大丈夫だって、怖くないからさぁ」
 男たちの中の一人が茜の耳元で呟く。
 気持ち悪かった。総司に何度か耳元で囁かれたことはあった。ゾクリとしたが、それは嫌なものではなかった。だが、今は違う。総司なら嫌じゃないのに、コイツらは嫌だった。コワイ、イヤダ、タスケテ。
「放してっ!」
 震える声を隠すように茜は大きな声をだした。まだ抵抗しようとする茜。それに男の一人が軽く舌打ちをした。
「いい加減諦めなっ!」
「っ!?」
 手を振り上げられた。叩かれる! 瞬間にそう思い、茜は目をギュッと閉じた。
 が、痛みはこない。
「何してんだよ………」
 聞き慣れた、あの声。茜は瞬間的に顔を上げた。
「総………司?」
 そこに総司がいた。まさに茜を殴ろうとしていた男の腕を掴み、睨んでいる。
「何だ、テメェ!」
 すかさず回りの男たちが言うが、総司は答えなかった。それどころか………。
「何してんだって聞いてんだよっ!」
 いつもよりも声を低くし、男たちを睨んだ。掴んでいた手に力を入れる。
 いつの間にか茜の腕を放していたので茜はペタンとその場に座り込んだ。
「ぐっ………!」
 腕を掴まれた男は痛みで顔を歪めた。総司はその腕を捻ると思い切り後ろへ回した。そしてそのまま突き飛ばす。
 男は総司の力に堪えきれなかったのか情けない声を出して倒れた。
「何しやがんだ!」
 回りの男たちはそれを合図に一斉に総司に殴りかかった。
「総司っ!」
 咄嗟に茜は声を上げたが、総司は反対にニヤリと笑っていた。喧嘩上等、といったところだろうか。さりげなく茜を後ろに庇いながらも総司は男たちの攻撃をかわしていった。一発も当たらない。寧ろ反対に総司がパンチをお見舞いしている。
 既に結果が見えていた。
「ちっくしょぅ、覚えてやがれっ!」
 どの男がそう言ったのかは分からない。だが、男たちは自分たちに勝ち目がないとわかるとそそくさと去って行った。
「ちっ、弱ぇヤツら………」
 さりげに舌打ちをする総司。が、茜はそれをぼぅっと見ていた。
 総司がここにいる。助けて………くれた?
 だんまりな茜。総司は小さくため息を吐くと振り返った。じっと茜を見つめる。それに茜はドギマギした。
「こんのアホ女っ!」
「だっ!」
 叩いた。思い切り総司は茜の頭を叩いた。予想もしなかったことに茜の口からは女とは思えない声が出る。茜が反応を返す前に更に総司は続けた。
「酒とつまみ買うのにどれだけかかってんだよ! 第一お前は限度というものを知らんのかっ! バカみたいに衝動買いをするな! んでもって買ったんならさっさと帰ってこいっ! こんなところにいるから絡まれるんだろうがっ!」
 一気に総司が怒鳴ったが、茜だって黙ってはいなかった。カチンときたのだ。
「な、何よっ! どれくらい買ってこいとか言わないからいけないんでしょう! めちゃくちゃ重たかったのよっ! しかもさっきからバカだのアホだの言い過ぎなのよっ! 元はといえば総司が悪いんでしょう? ジャンケンなんて急にするからっ!」
 こうなったら止まらない。二人の喧嘩は更にヒートアップする。
「自分のミスを人のせいにするなんてなぁー。ジャンケンといっても勝てばいいだろう? お前の脳は幼稚園なみか?」
「なっ! ムカつく! うっさいわよっ! だいたい何でアンタがここにいるのよっ!」
「誰かさんが一人でお使いに行けないからだろ?」
「行けるわよっ! 馬鹿にするなぁっ!」
「おぉ、そいつはスマナイなぁー」
「キィィィー! 感情が篭ってないっ! 心配もしてないくせにっ!」
「……………」
 すると、そこで総司はピタリ止まった。てっきりまた返ってくるだろうと思っていた茜は拍子抜けしてしまう。
「な、なによ。なんか言いなさいよ………」
「心配してないだと?」
「はっ?」
 呟かれた言葉に茜は気の抜けた返事を返した。
「本気でそう思ってんのか?」
「総………」
「そう思ってんのかよっ!」
「!?」
 茜が反応するよりも早く総司が動いた。
 ふわり、と体が温かくなる。痛くない。優しく、けれどはっきりと総司の体温が伝わった。
 何ヲサレテル?
 総司の肩に顔が当たる。と、いうか総司が茜の肩に顔を乗せていた。抱き締められている。
「総………司?」
「心配してなかったら来るかよ………」
 小さく呟かれた言葉。だがそれは茜の耳に届いていた。瞬間、茜の顔は赤くなる。心臓がこれまでにないくらい早くなった。
 ゆっくりと総司が離れる。けれど、その鋭い目は茜から離れないで………茜も目を反らすことができなかった。距離が縮まる。顔が近くなる。茜は必死の思いで目を閉じた。影ができるのがわかった。二人の距離は数センチもないだろう。吐息が……聞こえたような気がした。




「阿呆」
「いだっ!」
 額にピシリと当たる指。デコピン、デコピンだ。
「な、何すんのよぅ!」
 あまりの痛さに茜は涙目になり、額を摩った。
「お前こそ何考えてんだよ? あ? キスでもされると思ったのか?」
「なっ!?」
 ニヤニヤとこっちを見て笑う総司に茜は赤くなった。図星だったのだ。
「ほー、この俺様にキスしてほしいのか」
「だ、だだだだれがっ! そんな訳ないでしょうがっ!」
 真っ赤になりながら否定する茜。だが、それではすぐにバレてしまうだろう。勿論、総司には分かっていた。
「破廉恥女」
「だっ、誰が破廉恥女よっ!」
 突然の言葉に茜はキッと総司を睨んだ。
「キスされると思ったろ?」
「んなっ!」
 ニヤニヤと笑う総司。茜は言葉が出てこなかった。
「ったく、さっさと帰って酒飲むぞー」
 茜が何も言わないので総司はケラケラと笑いながら歩きだした。
「っ、待ちなさいよっ!」
 慌てて茜が追い掛ける。自分が何故こんなにも焦っているのかわからない。だから茜は気付かなかった。いつの間にか総司が重たい荷物を持っていることに。
「さっさと帰んぞ、破廉恥女ー」
 このネタは使える、と思いながらも総司は歩く。茜が買った酒とおつまみを持ちながら。だから総司は気付かなかった。今の自分がどれだけ穏やかに微笑んでいたかを。

                                                                     ≪千鶴≫↑

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 総司「心配してなかったらくるかよ……」←この言葉を言わせたかった。





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